抗生物質、抗ウイルス剤、抗真菌薬の有効性
免疫システムは菌に対する防衛の最前線だが、いくらか援軍が必要になるときもある。
抗菌物質とはなにか
抗菌物質という包括的な用語は、あらゆる微生物を殺す物質を意味し、科学界にも社会全般にも広まりつつある。
お疑いの向きは、家庭用洗剤のラベルを読んでほしい。
こうした製品の多くは、有害バクテリアとウイルスを殺すのに有効であることを売り文句にしている。
なるほど塩酸に手を浸せば、どんなに威勢のいいバクテリアだって闇に葬れるだろうが、いくら抗菌性があっても、そんな手荒なまねが最善の策でないのは明らかだ。
処方薬ばかりか漂白剤も抗菌物質というのだから、これらがどう作用するのか詳しく見てみよう。
抗菌物質とは
科学的に厳密な定義では、「微生物によってつくられ、他の微生物を殺したり成長を抑制したりする物質」のこと。
しかし慣用では、「バクテリアのみを阻害する物質」を意味する。
先述のように、バクテリアは条件が適正であれば増殖できる。
条件が一つでも適正なら、病原バクテリアは病気を感染および発症させ、増殖していく。
かくして戦争がはじまる。
敵はスビードでも数でも先手をとっている。
ついにはこちらのシステムの防御を突破する。
抗生物質は免疫システムが敵に備えるための時間を稼いで、劣勢を挽回させるものだ。
侵入者を迅速に殺し、その数を激減させ、外敵を寄せつけない。
こうした働きのおかげで、自前の防御システムはやがて優勢となり、感染症を撃退する。
抗生物質はどうつくられ、どう作用するのか?
こんにち使われている抗生物質のほとんどは、二種のバクテリアからつくられている。
ストレプトミセス属(真菌類に似ている前出のバクテリア)と、バチルス属である。
つぎに多い抗生物質のもとが、二種の真菌ベニシリウム属と、セファロスポリウム属。
研究室でゼロから人工的につくられるものもある。
菌から生産されるものでも研究室で化学的に変化させ、胃酸への耐性をもたせたり、さまざまな種類のバクテリアに広く効くように改良したりして、その効能を高めている。
抗生物質の標的はバクテリアの弱い部分の組織である。
つまり細胞壁、タンパク質がつくられる内部組織、細胞の中身をつつむ膜である。
さらにバクテリアが化学的に健全なDNAを維持するのに必要なプロセスを攻撃する。
ペニシリン、バンコマイシン、セファロスポリンといった抗生物質は、バクテリアの細胞壁の合成を妨げる。
不完全な構造のバクテリア細胞は化学的ストレスで破壊される弱い組織となり、やがて死へと追いやられる。
ポリミキシンBのような抗生物質は、バクテリアの細胞膜にダメージを与える。
しかし、ヒトの細胞にも膜はあるから、こうした物質を内服するのは危険だが、小さな擦過傷の治療で皮膚の表面(患部)に塗布するぶんには差しつかえない。
応急手当用の軟膏の多くに「外用にのみ使用」と注意書きがあるのはそのためだ。
ストレプトマイシン、エリスロマイシン、テトラサイクリンといった抗生物質は、バクテリアのタンパク質の合成を妨げ、その細胞を殺す。
DNAの生産を阻止するものには、キノロンおよびニューキノロン(フルオロキノロン)系抗菌剤がある。
ノルフロキサシン、シプロフロキサシンもこれに含まれる。
この種の抗生物質は、とりわけ肺炎、赤痢、尿路感染症の病原バクテリアに有効である。
抗生物質は有害?無害か?
抗生物質が直接または間接に害になることがある。
アレルギー反応はよくある例だが、だれもが起こすわけではない。
ペニシリン系の薬にアレルギーがある人は、セファロスポリン系の薬にも反応するかもしれない。
もし抗生物質を服用して、ほてりや「違和感」を感じたり、発疹が見られたり、息切れしたりしたら-
こうした症状が一つでもあったら-ただちに医師に連絡すること。
アレルギー反応のほかにも、抗生物質が起こす問題はある。
たとえば、ストレプトマイシンは第八脳神経(内耳神経)にダメージを与えることがある。
この神経は二つに枝分かれし、聴覚(蝸牛神経)と平衡感覚(前庭神経)にかかわっている。
もしこうした物質を服用して、めまいや耳鳴りを感じたら、ただちに医師に連絡すること。
抗生物質は個々のバクテリアの善し悪しを区別できないので、治療では善玉菌もろとも殺してしまいます。
善玉菌の多くに食物の消化を助けてもらっているので、これらを殺すと、胃腸を痛めることがある。
ヨーグルトや乳酸菌飲料を摂取すると、必要なバクテリアを回復し症状をやわらげるのに役立つでしょう。
耐性菌は重大な問題なのか?
いまや最良の抗生物質でも効かない危険なバクテリア、いわゆる薬剤耐性菌が存在する。
突然変異や環境から(とりわけすでに耐性のある菌から)遺伝情報を得ることによって、耐性ができるらしい。
そのメカニズムは、薬がバクテリア内に侵入するのを防いだり、侵入した薬を破壊したり、というものだ。
だから、むやみに抗生物質を使えば使うほど、耐性菌が適者として選択され生き残り、優勢になっていく。
抗生物質は1940年代後半からバクテリアによる感染症の治療に用いられ、数多くの命を救ってきた。不幸なことに、こうした薬剤が世界じゅうで乱用されたため、死を招く耐性菌が増え、広がってしまった。
畜産業もこの間題の一因となっている。
家畜の健康や体重増のためにエサに抗生物質を混ぜるようになって、間接的にヒトの抗生物質の消費が高まったのです。
菌の抗生物質への抵抗性がとりわけ問題となるのは、医療施設におけるブドウ球菌など多様な耐性菌の出現においてである。
こうした新たな事態が科学者たちの新薬の発見、合成への努力をうながした。
しかし新薬が開発され、認可され、販売されるまでには、およそ十数年の歳月と数千万ドルの費用を要する。
最近開発された抗生物質の一つに、ザイボックスがある。
さまざまな耐性菌に対処する、2000年にアメリカで認可された新薬だ(2001年、日本は輸入を認可)。
この薬がまず標的とするのはアメリカで感染による疾患や死亡の主な原因となっている肺炎球菌、そして院内感染の主な原因とな
っているブドウ球菌および腸球菌である。
ウイルスを殺すのはなぜ困難なのか
感染をきれいに除去するためには、体組織や循環器系にいるウイルスを退けるのみならず、ウイルスに乗っとられた細胞も始末しなければならない。
既存の抗ウイルス剤ですべてのウイルスを退治することはできない。
だから、もっぱら自前の防御機能に頼ることになる。
とはいえアシクロビルのような抗ウイルスは、単純へルペスウイルス(1型=口唇ヘルペスの病原、2型=陰部ヘルペスの病原)感染症を治すわけではないが、このウイルスの抑制にはきわめて有効である。
AZT(アジドチミジン)やプロテアーゼ阻害剤は、エイズの原因ウイルスであるHIVをターゲットにしている。
アマンタジンやリマンタジンといった抗ウイルス剤は、感染後二日以内に服用すればインフルエンザウイルスA型に効く。
抗ウイルス剤はウイルスを根絶するわけではないが、免疫システムの働きの大きな助けになる。
なぜ抗真菌剤は少ないのでしょうか?
抗真菌剤の開発はむずかしい。
ヒトと真菌の細胞の機能が酷似しているため、真菌感染症の治療薬のほとんどはヒトにも有害である。
真菌感染はたいがい皮膚や粘膜の限られた深さまでで起こり、こうした外層は毎日のように生まれ変わるので、外用治療では多くの抗真菌剤が使用できる。
ミコナゾールのような薬は、真菌が起こす水虫の治療に使われている。
しかし、体内で真菌感染が起きたら、話はまったくちがってくる。
この場合、感染は全身に広がるといわれている。
こうした症状に効く抗真菌剤もあるが、きわめて毒性が強く、使用には細心の注意を払わなければならない。
ということで抗生物質、抗ウイルス剤、抗真菌剤の使用にあたっては、それが体におよぼしかねない作用を心に留めておいてほしい。かならず医師と相談のうえで使用すること。
他人向けに処方された薬を服用したりしないように。
○外傷、抗生物質の長期使用、栄養不足、病気や薬物療法による免疫機能の低下は、病原体の侵入を招く。
○抗生物質はバクテリアを殺す。
○抗ウイルス剤はウイルスを、抗真菌剤は真菌を退治する。
○抗菌物質とはバクテリア、真菌類、ウイルスなどの微生物を阻害するものである。
○抗生物質の多くはバクテリアからつくられるが、真菌からつくられるものもある。
〇研究室で化学的に合成される抗生物質もある (これをデザイナードラッグという)。
○抗生物質はときにアレルギー反応を引き起こす。
○耐性菌の出現は、急速に世界的な問題となっている。

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