カビを防ぐ基本的な方法とは。防カビ剤だけでは防げない!
カビ対策は、防カビ剤の使用だけが有効なわけではないということです。
とくに一般の家庭にとっては、防カビ剤だけに頼らない工夫が必要です。
カビを防ぐには、カビが付着しないようにすること、付着しているカビを殺すこと、もしカビが付着していても増殖しないようにすることなど、いくつかの側面があります。
それには、一般の生物が持つ性質、カビ特有の性質を利用した、次のような方法が考えられます。
2)カビの発育に必要な酸素や水分、栄養分が乏しい環境をつくる。
3)カビの生育に適した温度に比べて、極端に高いか、逆に極端に低い温度にする。
4)カビを科学的な方法で取り除く。
5)カビを科学的な方法で死滅させる。
1)はカビが完全に除去された状態のまま密封する方法、
2)では空気遮断、乾燥、清潔といった方法が考えられます。
3)は加熱か冷凍、
4)は濾過、
5)は防カビ剤などの化学合成薬剤による殺菌を意味します。
実用的な方法としては
空気遮断によるカビ対策一酸素をなくす。
カビのほとんどの種類は、呼吸のために酸素を必要とします。
酸素がなければ、生きていくことができません。この性質を利用した防カビ法です。
昔から、もちを水に潰けて保存する水もちは、酸素を遮断してかび防止の効果をあげる保存法です。
空気には約二割の酸素が含まれていますが、容器の中に脱酸素材を封入して密閉すると、容器内の酸素濃度は0.1%程度になるので、この中に入れた食品にはカビは生えません。
脱酸素剤は、粉状あるいは粒状の鉄の化合物で、それ自身が酸化することで酸素を消費し、結果として、容器内の酸素濃度を下げます。
缶入りの海苔やコーヒーは、缶の内部の酸素を完全に除去すると、予想以上に効果のあることがわかっています。
箱入りの菓子、袋づめのピーナッやクッキー、最中や優頭やケーキを包んでいる包装紙の中に20×20ミリぐらいの酸素吸収剤が入っていることがあります。
これは、十分な効果が期待できません。
包装や袋を通じて外部から内部に酸素が侵入するためです。
酸素を侵入させないためには、かなり厳重な工夫が必要です。
家庭で使うお茶の缶では不十分です。
加熱·乾燥によるカビ対策<60℃以上、水分15%以下で発生を防ぎます。>
カビも含めた微生物を死滅させる方法として、最も一般的なのは加熱です。
缶詰や瓶詰めのように密封容器に入れて高温処理すると、内部の微生物は死滅して保存性が高くなります。
カビは60℃以上で、ある程度の時間加熱すると死にます。
ただ、食品は加熱しすぎると風味を損ないます。
乾燥も効果的な防カビ対策です。
食品などでは、含まれている水分が15%以下になるとカビなど微生物の活動は休止状態となり、水分が10%以下になるとカビが生える心配はまずなくなります。
干し椎茸、カンピョウ、昆布、煮干し、魚の干物など、いわゆる乾物と呼ばれる食品は、乾燥によってカビを防ぎ、保存性を高めた先人の工夫です。
ちなみに、干し椎茸やカンピョウの水分含有量は約20%、昆布は8~10%、煮手干しは約16%、アジの干物は約20%です。
これに対して、もちは45%、食パンは38%と水分含有率が高いので、カビにやられやすいのです。
乾燥は住まいのカビに効果的
住まいのカビを防ぐのに、比較的容易で、かつ効果が期待できるのは、この乾燥によるカビ対策です。
室内の湿度をできるだけ上げないようにすること、室内をできるだけ乾燥させることが有効です。
それには、次のような方法があります。
室内にできるだけ風を通す。
窓を開けて自然な換気を促すか、換気扇によって強制的に換気します。
キッチンや洗面所、浴室などはとりわけ、このことが重要です。
住まいや室内に風の通らないところをつくらない。
納戸として使ってほとんど閉め切りの部屋、家具と密着した壁、閉め切りの天袋などは、
カビにとって絶好の環境です。このような場所をつくらない工夫をします。
結露を防ぐ
室内と戸外の温度差が大きいほど結露しやすいので、とくに寒い時期の室内の暖房の温度を上げ過ぎないこと。
結露したら乾いた布で水分を拭き取るぐらいのマメさは必要でしょう。
根本的には、家屋や窓のつくり方によります。
冷凍(カビの活性は低下させるが生き延びます)
冷凍食品の加工技術は、この二〇年ほどで長足の進歩を迷げました。
急速冷凍した魚や肉は、氷点下40℃くらいに保存すると2~3年は品質や味がまったく変わりません。
解凍して刺身や寿司に加工しても、生のものか冷凍品を解凍したものか、素人では新鮮度の違いをまったく区別できないほどです
カビなどの微生物は、温度が下がると活性が落ちて増殖しにくくなります。
0℃以下になると多くのカビは活動しなくなります。
マイナス10℃以下なら、ほとんどのカビは増殖しなくなります。
一般に、冷凍食品はマイナス18℃以下ですから、冷凍はたしかにカビ防止に有効な方法です。
温度ばかりでなく、冷凍によって食品中の水分が凍結することも、カビの増殖防止に役立ちます。
カビは凍結した水分を利用することができないので、乾燥した環境にいるのと同じことになり、この点からも活性が落ちます。
ただ、注意したいのは、冷凍によってカビの活性は低下しますが、カビが死滅するわけではないということです。
凍結されたまま時間が経過すると死滅に向かいますが、それはきわめてゆっくりしたものですから、通常は、かなりの長期間を経過してもカビは生き残っていると考えるのが妥当です。
さらに、困ったことに、カビは温度が低いほど生き延びる期間が伸びます。
凍結していれば、自然な劣化も起こりにくいのです。
カビ対策としては、冷凍は必ずしも万全とは言えないということです。
濾過 (10万分の50ミリ以下の目でないと効果がない)
ミネラルウォーターにカビが混入する事故が続発したのは1995年のことですが、ミネラルウォーター以外の清涼飲料科水やジュース、コーヒー、乳酸菌飲料、ボタージュなどにカビが混じっていることもあります。
名古屋市衛生研究所が消費者から苦情のあった飲料について調べたところ、クロカビ(クラドスポリウム)、クロコウジカビ(アスペルギルス·ニガー)、アオカビ(ペニシリウム)、フォーマ、ツチアオカビ(トリコデルマ)、アカカビ(フザリウム)など多様なカビが検出されました。
液体にカビが混入しないようにするには、濾過器を使います。
とくに、液体に溶けている物質が加熱で分解しやすい場合や、加熱によって色調や風味に変化が起こる場合は、特殊なフィルタを用いて遭過して、物理的に微生物を取り除きます。
最も簡便なフィルタ(ろ過器)としては濾紙がありますが、もちろん、目が粗いのでこれで微生物を捕捉することはできません
古典的なフィルタには、陶土製のシャンベーラン·フィルタ、ケイソウ士製のベルケフィルド・フィルタ、石綿製のザイツ·フィルタなどがあり、いずれも飲料水の無菌化に広く使われました。
これらのフィルタは、液の処理に非常に時間がかかるのが大きな欠点です。
たとえば、1リットルのJP4(航空燃料)をザイツ·フィルタで無菌化するのに約50分もかかり、これではとても実用になりません。
最近普及しているミリポア·フィルタ(ミリボア社製のフィルタ)を使うと、一リットルのJP4をわずか七分で完全に無菌化でき、非常に能率よく濾過できます。
このフィルタの素材は、セルローズ·エステルというアセテート繊維です。
軍事目的で開発されたフィルタ
ミリボア·フィルタのように、 超薄の膜を素材とするフィルタをメンブラン・フィルタと意称します。
メンブランは「膜」のことで、ガラス緩維、ナイロン、ボリカーボネートテフロンなども素材として使われます。
主流になっているのは、アセテート繊維のフィルタです
ミリポア·フィルタの目(ボアサイズ)は0.22ミクロン(10万分の50ミリ)です。
微生物の最小は0.5ミクロン(10万分の50ミリ)なので、このフィルタで連通すると、目にひっかかって通過しません
フィルタの素材はきわめて多くの孔が空いていて(多孔性)、全体の面積の約人80%が孔で、材料本体はわずか20%に過ぎません
濾過する材料によって変質すると使えないので、水、弱酸、弱アルカリに侵されない性質を持っています。
高い耐熱性があるので、120℃での高温殺菌をして使用します。
メンプラン·フィル多は、ワイン、ビール、コーラなどを大量に処理するろ過装置につかわれ、1時間に2~3トンもの量が処理可能です。
製薬など化学工業における分野、公衆衛生の分野、病院など医学分野などで、除菌を目的として広く活用されています。
余談になりますが、メンプラン ·フィルタは、軍事目的で開発されました。
戦場で兵士たちの飲料水を確保するため、河や沼の水を遭過する装置が求められたのです。
装置は次第に小型軽量化されていき、ついにはストロー状のものが開発されました。
ストロー部分の中間にフィルタがあり、そこで液中の細菌とカビを減過除去します。
この開発ビジネスは、第二次世界大戦のとき、軍用の需要で大きく発展しました。
戦後、この技術が民需に活用されました。
たとえば、コカコーラは、製造時に砂糖を加えるとき、野性の酵母が混入することがありました。
そのままビン詰にして中でアルコール発酵が進み、コーラを飲んだ子供たちが酔うというトラブルが起こったため、それを防
ぐ目的で 全品をメンブラン·フィルタで処理し、完全に無菌のコーラができるようになったのです。
その後、メンプラン·フィルタは他の清涼飲料やビールなどの処理にも使われるようになっています。
防カビ剤(数多くの殺菌剤のうちカビ防止に効くものはわずか)
一般に「防カビ剤」と呼びますが、この用語は比較的新しく、以前は、カビを防ぐ薬剤はすべて殺菌剤と呼んでいました。
具体的には、エチルアルコール、クレゾール、フォルマリン、ヘキサクロロフェン、ヨードチンキなどです。
1970年頃、すでに、入手可能な殺菌剤は50種以上もありました。
しかし、テストをしてみると、ほとんどの薬剤は細菌のみに有効ではあるものの、カビを的確に阻止できるものは2~3種しかないことが明らかになりました。
現在、殺菌剤として販売されている薬剤は約360種にのほりますが、カビの発育を防ぐ効果が明らかなものはごくわずか、5~6種に過ぎません。
多くの薬剤が「防カビ剤」と称したり、「防カビ効果」をアピールして販売されていますが、その中にはかなり無責任なものが多いのが現実です。
効果のない 「抗菌グッズ」
最近、よく見られるのが「抗菌処理」で、その処理に使われるのが「抗菌剤」です。
抗菌剤という表現は、きわめて新しく、日常的に広く使う物品に微生物が発育しないようにする薬剤という調い文句で販売されています。
抗菌剤の大半は、銀の化合物です。
薬学の基本から言えば、銀が少しずつ水に溶け出してイオン化し、その銀イオンが殺菌作用を発揮しているはずです。
わざわざ「はずです」と書いたのは、問い合せたメーカーは、「銀は水に溶けないので安定していて長期に有効で、毒性の心配はない」と答えたからです。
本来、銀イオンは水銀イオンと同じくらい強力な毒ですが、それに対して、メーカーは、安全であることを強調したいために、「水に
溶けない」(つまりイオン化しない)と答えたものと思われます。おかしな話です。
しかも、いわゆる抗菌商品2~3種を購入して、私自身がテストをしたところ、どれも防カビ効果はなく、カビが生えました。
「カビ取り剤」は、つまり漂白剤で、もっとも有効なのは次亜塩素酸という物質を使った製品です。
しかし、この物質は刺激臭が強く、目や鼻を傷めるので、安全に使える家庭用品とは言えないようです。
「カビキラー」などの主成分は、この塩素剤です
食品や建材などの腐敗防止に使われるのは「防腐剤」で、比較的殺菌力の弱い薬剤です。
カビはものを腐敗させますから、防腐剤には防カビ作用を持つものもあります。
食品に使われる防腐剤は、「食品衛生法」という法律によって、使用する薬剤の種類や使用量が制限されています。
防カビ剤使用法の常識·非常識
一般に言われている防カビ剤の使用法は、次のとおりです
1)カビにアルコールを噴霧するか、布で拭き取る。
2)カビの生えていたところに防カビ剤を塗る。
3)さらに、その表面に防カビ塗料を塗る。
しかしこの方法では、カビ対策としてきわめて不十分です。
そもそも、薬剤をどう使うかという基本を踏まえていないことが問題です。
防カビ剤はすべて化学薬品ですから、ビンに密封して0~5℃くらいの低温で保存すれば4~50年くらいは、その性質は変わりません。
けれども、塗料に混和して使うと、寿命は二~三か月と極端に短くなります。
専門のリフォーム業者でさえ、この知識がなく、さしたる工夫もしていないようです。
業者の中には「予算に応じたものを買って使っている」と、プロ意識が欠如した返事をする人さえいて、とても驚いた経験があります。
これでは、的確な防カビ対策どころの話ではありません。
そのときはきれいになったように見えても、すぐにカビが再発生するのは目に見えています。
防カビ剤の条件
私の経験と研究から言えば、防カビ剤と殺菌剤を塗料に加えて用いるのが、室内、室外を問わず最も効果が大です。
防カビ剤として実用に適している薬剤は、以下のような条件を満たしているものです。
(1) 10ppm以下の低い濃度で長期わたってカビの発育を抑制できること
ppmは、parts per millionの頭文字で、100万分率を表わす単位。
1ppmは100万分の1、つまり1万分の1%に当たります。
10ppmは、1000分の1%で、きわめて低い濃度です。
(2)水に溶けにくいこと
水によく溶ける薬剤では、塗装面が結露したり、水で洗ったり、水分がかかったりすると有効成分が短時間に失われ、効果がなくなります。
水に溶けにくければ、わずかずつ有効成分が溶出し続けるので、カビは発育できません。
(3)光の作用で塗装面が変色しないこと
とりわけ一般の住宅で使う薬剤は、変色すると外観を損ねるので、この条件が必要です。
(4)無臭で目や皮膚を刺激しないこと
薬剤は常に塗装面から溶け出しているのが効果を持続する条件です。
臭いや刺激がある薬剤では、人に不快感や健康上の問題を与えます。
TBTO(トリプチルティンオキサイド)などの有機スズ化合物は非常に低濃度でカビの発育を阻止するのですが、肉の腐ったような不快な悪臭があって、これを混ぜた塗料を使うと、塗装後にも室内に悪臭が漂うので嫌われました。
農業用以外に、衣類や皮革などに添加されるなど家庭向けの製品にも広く使われましたが、毒性が強いことから1980年に使用が禁止されました。
(5)毒性が低いこと
毒性には、触れたり吸ったりするとすぐに症状が現われる急性毒性と、すぐにではなく、長期にわたって繰り返し触れたり吸ったりすると症状が現われる慢性毒性とがあります。
どちらについても、そのレベルが低くなくては使えません。
40年前まで、稲のイモチ病対策として有機水銀剤が大量に使われました。
しかし人体に対する安全性に大きな問題があることがわかり、使用中止になっています。
安全性への配慮はきわめて重要です。
(6)自然の使用環境下で化学的に安定しており、分解しないこと
化学的に安定しているということは、それだけ効力が持続することを意味しています。
安全で効果的な防カビ剤の例
推薦できる防カビ剤を取り上げておきます。
TBZ
アメリカのメルク社が、毒性のある水銀や塩素をまったく含まない農薬として開発した薬剤です。
化学物質名は2(4ーチアゾリール)-ベンゾイミダゾール、あるいはチアベンダゾール。
多くの略称がありますが、TBZが最もよく使われます。
三三〇での高熱に耐えます。
化学的にきわめて安定した化合物で、他の物質とも反応しにくく、水には30ppm(0.003%)と、きわめて溶けにくい性質を持っています。
有機溶剤にも溶けにくく、エタノール0.68%、60%のグルコールに約20%、 pH2.2の水に3.84%溶けます。
酸、アルカリに分解されることがなく、粉末は長期の保存が可能です。
きわめて多くのカビに対して有効です。
主なカビに効く濃度は、以下のとおりです。
濃度は、カビの発育を阻止できる最低限度の濃度、つまり発育最低阻止濃度(MIC)で示しています。
アルペルギルス·ニガー(クロカビ) 10ppm(0.001%)
フザリウム·モニリフォルメ(アカカビ) 15ppm(0.0015%)
アルテルナリア·アルテルナータ(ススカビ) 50ppm(0.005%)
いずれもきわめて低い濃度で有効です。
オーレオバシディウム·プルランスに対するMICで見ると、有機水銀剤のひとつフェニル酷酸水銀剤が25ppm(0.0025%)なのに対して、TBZは0.2ppm(0.00002%)と、効果の強力な有機水銀剤の100分の1の濃度ですむのですから、TBZがいかに優れた薬剤かわかります。
TBZはきわめて水に溶けにくいので、塗料の表面には微量しか溶出しませんが、低濃度でも完全にカビを阻止します。
しかも溶出が微量なので、効力が長続きし、1度塗ると二~三年にわたってまったくカビが生えません。
安全性の点でも、TBZは優れています (K, H. Franz. A. J. Trop, Med 12, 211 (1963)よる)。
(1) TBZについて毒性実験を行なった動物は200種に及んでおり、毒性が弱いことがわかりました。
(2)人が一日一人当たり四 gのTBZの内服を二年間続けても身体的な異常はまったく発生しない。
被験者は200名に及び、TBZは体内で少しずつ分解して排世されるので、体内に蓄積しないことが確認された。
アメリカのFDA (食品医薬品局)は、この結果から食品添加物としての使用を認可し、現在アメリカ、ヨーロッパの約35か国で使用されている。日本でも1978年に認可された。
(3)世界中の主要国でカンキツ類、バナナ、リンゴなどの防カビ処理剤として登録、使用されている。
アメリカのFDAによる登録基準は、オレンジに対して10ppm(0.001%)である。
カナダも10ppm、デンマーク、ドイツ、フランスなどは6ppm(0.0006%)、オーストラリア、ニュージランドは2ppm(0.0002%)。
アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、モロッコ、ペルー、スペインでは無制限の使用が許可されているが、これは、アフラトキシン生産菌の多い国であるための処置と思われます。
カンキツ類とバナナについての防カビの効果は非常に大きく、リンゴとナシに使用している国も多い。
日本では、カンキツ類とバナナの食品添加物として使用されています。
(4)駆虫効果がある薬剤として、アメリカとヨーロッパで一○年間、人体での使用実績がある。
アメリカなどの主要畜産国と日本では、羊、山羊、牛などの動物用駆虫剤として使用している。
推定累積投与動物数は、22億頭に及ぶ。
(5)臭気や味がなく、目や皮膚などを刺激しない。
皮膚から内部に浸透する毒性(経皮毒性)も実用上心配ない。
五年以上の蓄積毒性の試験で無害と認められている。
常識をくつがえしたTBZ
TBZの価値は、今日ようやく高く評価され、その有用性がよく理解されるようになりました。
エマルジョン塗料(乳濁液状の塗料)に添加して塗装すると、優れた効果が出ることが、多くのテストで明らかにされています。
とくに住宅の浴室、洗面所、調理室、あるいは食品工場の壁面など、ぬれやすいところの防カビ対策に優れた効果を発揮します
プレベントール
ドイツのバイエル社が販売している白色の粉末で、水に溶けにくい防カビ剤です。
プレベントールA3と、プレベントールA4があります。
プレベントールA3は、化学物質名はM(フルオロディクロロメチルチオ)フタルイミカビだけではなく、細菌にも有効です。
主なカビや細菌に対する発育最低阻止濃度(MIC)は、以下のとおりです
アオカビ40ppm(0.004%)
クロカビ70ppm(0.007%)
枯草菌 6ppm(0.0006%)
融点は142~148℃で、塩ビを加工するときの高熱に耐えるのが特徴です。
プレベントールA4は、プレベントールA3を改良したもので、化学物質名は、NージメチルーNーフェノールーN(フルオォロジクロロメチルチオスルファミド)です
水に溶けにくく、メタノールに1.5%、メチレンクロライドに32%落けます。
主なカビや細菌に対する発育最低阻止濃度(MIC)は以下の通りです。
コウジカビ 3ppm(0.0003%)
クラドスポリウム(クロカビ) 10ppm(0.001%)
枯草菌 30ppm(0.003%)
プレベントールA3に比べて、カビに対する効力が強いことがわかります。
数日~数か月程度で現われる毒性(亜急性毒性)については、実験用のネズミ(オスとメス)に4か月以上毎日1000ppm(10%)投与を続けても異常は認められませんでした。
バイナジン
化学薬品の大メーカーであるアメリカのベントロン社が販売している防カビ剤です。
先に紹介したTBZZ、プレベントールA3.A4は、どれも最初は農薬として研究開発され、その後に工業用の防カビ剤に応用されたものです。
これに対して、バイナジンは最初からプラスチック専用の防カビ剤として研究開発された点に特徴があります。
ブラスチック用の防カビ剤の条件
ポリウレタン樹脂やポリ塩化ビニール樹脂に配合する薬剤としては、次のような条件に適合していなければなりません。
(1)耐熱性を持つこと
プラスチックの加工では高熱処理されますが、このとき薬剤が分解して効力が消滅するようなことがあっては使えません。
(2)紫外線に対して安定で、変色したり分解したりしないこと
(3)配合することでプラスチックの性質が変化しないこと
(4)配合することでプラスチックに濁りが出たり、粉を吹くようになったり、変色したりしないこと
(5)毒性が低く、多くの実用上の用途で安心して使えること
わが国で現在、市販されている殺菌剤約三六〇種のほとんどは、この基準に適合しません。
活用できるものは、わずか2~3種です。
バイナジンは、「硬質のポリ塩化ビニール製品、ポリウレタン製品、シリコーン製品などに発生するカビによる変質、劣化、腐食、崩壊を防止する薬剤としては最適である」というのがベントロン社の主張です。
すでにアメリカで25年以上の使用実績があって、事故はまったく発生していないとしています。
化学物質名は、10、10-オキシビスフェノキシアルシン、略称OBPAです。
白色の粉末で無臭。
融点181~182℃で、380℃で分解します。
熱安定度は塩化ビニール樹脂より高く、溶剤、酸、アルカリ、洗剤、アルカリ石けんなどで分解されることはありません。
安全性について言えば、バイナジンは毒性に関して非常によく調査され、多様な用途における20年以上の使用実績から、実用上、安心して使用できると判断されています。
実は、バイナジンの活性原体は有機ヒ素化合物です。
ヒ素は毒物ですから、それを含むバイナジンの毒性を心配する人がいるかも知れませんが、その毒性は実用上ではきわめて低く、たとえばポリ塩化ビニル樹脂に配合添加したものは安全に使用することができます。
幼児の皮膚に接触して使用するもの、たとえばベビーパンツは、バイナジンが0.03%配合されていても、アメリカのEPA(環境保護庁)から安全性を承認されています。
このベビーパンツは10年間使用し、洗濯をくり返した後でも微生物抵抗性が失われずに残るというすぐれものです。
また、自然界にはヒ素を含むは多く、高濃度なものではヒジキ(ヒ素の濃度150ppm)、イガイ(同80ppm)、クルマエビ(同72 ppm)などがあり、肉類や野菜、果物にも含まれています。
これらの有機化合物となっているヒ素は、食物として食べても害はありません。
バイナジンの活性原体も有機ヒ素ですから、害の心配は不要です。
ポリ塩化ビニルのシートやフィルムは、バイナジンを0.03~0.05%配合することによって、長期にわたってカビによる障害を防止できます。
他の防カビ剤に比べて非常に低い濃度でカビ防止の目的が達せられる点が大きな利点と言えます。
バイナジンは、アメリカ、ヨーロッパ、東南アジア、日本などで、プラスチック用の防カビ剤として広く使われています。
日本の防カビ技術は世界最高です・・・しかし
今日の防カビの技術水準は、日本が世界で最高です。
効力や性質がより優れた防カビ剤を望む声が聞かれますが、それよりも、いま入手できる防カビ剤を合理的に活用する技術を向上させることと、それによって激しいカビ被害に対する的確な防止対策を確立することが先決です。
そう考えるのは、TBZやバイナジンに匹敵する優れた防カビ剤を新たに開発するとなると10年以上の歳月を必要とするからです。
また、安全性に関する調査·研究には数億円もの費用がかかるので、安心して使えるように実用化され、確実に利益が還元されるに
はたいへんな努力と歳月を要するからです。
そのため、いま入手·利用できる防カビ剤を活用するのが賢明な道です。
いまの防カビ剤を正しく使い、その効力をうまく活かせば、十分な成果が上がるはずなのです。
にもかかわらず、カビが猛威を振って手のつけようのない深刻なケースが非常に多いのが現実です。
甚大な被害が出ているのはマンションで、とくに一階の部屋と浴室がひどいようです。
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