そもそもカビって何?キノコもカビ?
カビとは何か-いろいろな微生物
微生物とは、目に見えないほど小さい生物の総称である。
微生物の主なものには、ウイルス、細菌、菌類などがある。その中で、カビは菌類に含まれる。
菌類の主なものといえば、カビの他に、キノコ、酵母がある。なお、細菌も菌類に含まれると思っている人が多いが、細菌と菌類はまったく異なる。
そこで細菌と区別するために、菌類のことを真菌類と呼ぶこともある。
「カビ」という言葉はいわゆる呼称で学術用語ではない。
例えば、キノコの中には非常に小さいものもありどこまでをカビと呼んでよいかについて迷うことがある
その境目は実は暖味である。カビと呼んでよいか迷う場合は菌類と私は呼ぶことにしている。
菌類はいずれも子孫を残すために植物でいえば種子に当たる胞子を大量に作る。
また、菌類の体は菌糸と呼ばれる一般に長い糸のようにつながった細胞からできている。
カビでもキノコでも、さらに酵母でも、細胞の大きさに大差はない。
カビとキノコはいずれも菌糸からできているが、酵母の細胞は糸のようにつながっていない。
だから、酵母は増殖してもバラバラの細胞が集まって、球形の粘性のある塊になる。
しかし、酵母の中には、カンジダ菌のように生育条件が変わるとカビのように糸状に生えてくるものがある。
また、シロキクラゲというキノコのように、生育条件によって酵母になったり菌糸になったりするものもある。
遺伝子的にも、酵母はカビなどとは深い関連があるのだ。
ただ、酵母は発酵などの実用面で重要なものが多いため、カビとは区別されている。
酵母という呼称には善玉の響きがある。
カビはどのようにして発生するのか?-胞子は、いたるところにいる
植物は、種が地に落ちて発芽し、成長します。
カビで、植物の種にあたるのが胞子です。
胞子は、成熟すると空気中に飛散し、風に乗って運ばれ、条件のよいところで発芽します。
胞子はきわめて小さいので目に見えませんが、私たちが生活している環境では、あらゆるところの大気中に飛んでいます。
その胞子が食品などの対象物(基質)に落ちたあと、発芽し、基質の表面や内部など、栄養分がある方向に向かって、菌糸と呼ばれる糸状の細胞を延ばしていきます。
やがて空気中に延びた菌糸の先端に胞子ができます。
多くの菌糸が枝分かれして集合すると、肉眼で見えるようになります。
カビが育つには湿気が必要で、その点、日本の気候風土のように暖かく湿気の多い環境は、カビの生育に適しています。
サハラ砂漠やアフリカの熱砂の地域では、カビは生きていけません。
しかも、今日の住宅は、昔の家よりもはるかに気密性が高く天井が低い。
これは、室内の風の流れが悪く、湿気が部屋の中に渋滞しやすい構造で、カビにとってはまことに好都合な条件がそろっています。
カビの胞子はいたるところにただよっている
カビは、地球上のすべての場所と大気中に生きています。
宇宙のどの辺までいるのかはよくわかりません。
このようにカビの胞子は自然界では広く分布しているので、人の体に付着して家の中に運ばれます。
住宅に使われているプラスチックや塗料はカビの栄養になるので、湿気が多いとすぐにカビが生えてしまいます。
たとえば、壁面のプラスチック内装材の表面に緑、黒、黄、赤など色とりどりに見えるのは、カビの胞子です。
胞子は微小で軽いので、人がそばを通るわずかの風圧で、壁面からはがれます。
目に見えませんが、カビの胞子は空気中に無数にただよい出すのです。
エアコンを使うと、空気中の胞子は、その吸気で吸い込まれ、エアコン内部の湿った暖かい部分のプラスチック上で増殖します。
ですから、エアコンは、高原のさわやかな冷気を送り出すのではなく、カビの胞子を室内に吹き出す装置になり、アレルギーやぜんそくなどを引き起こして人々を悩ませることになります
人が生活しているところでは、人体、ペッット、植物、食物などカビの存在しないところはありません。
衣類、寝具、靴、カバン、カーペット、家具などからも簡単にカビが検出されます。
土壌の中にはもっとも多く存在し、雨水とともに河、池、湖、海洋へ移行します。
淡水や海水にも、カビは存在しています。
落葉、枯枝、枯葉などは、土中のカビや他の微生物の作用で、含まれている有機物はすべて、すみやかに炭酸ガスと水、無機物(マグネシウム、カリ、鉄、リン酸など)に分解されて土に吸収され、植物の根から水とともに吸収されて生育を促します。
寄生と腐生<カビは何を食べ、どう栄養をとるのか?>
カビも生物ですから、生育するには栄養分が必要です。
カビは、糖分、セルローズ、でんぷん、石油などの炭素分や、タンパク質、アミノ酸、アンモニア、硝酸などの窒素分で生育します。
ほかに、水に溶けている無機物、たとえばマグネシウム、カリウム、鉄、亜鉛なども必要です。
カビを人工的に培養するときに使う成分は、硝酸アンモン、硝酸カリ、リン酸カリ、硝酸ソーダ、微量の鉄、亜鉛、銅などです。
炭素分としてはデンプン、いろいろな糖、石油などです。
窒素分は、右にあげた硝酸アンモン、硝酸カリなどの無機塩に含まれています。
一般に、植物は、自分で有機物(炭素を含む化合物)をつくります。
葉緑体の中で、二酸化炭素と水を材料として、太陽エネルギーを利用して糖類を合成します。
これが、光合成という働きです。
ところが、カビは葉緑素を持っていないので、自分で有機物を合成することができません。
このため、他の動物や植物にとりついたり、食品や生活用品など有機物を含む物質にとりついたりして、それらから栄養分を吸収します。
生きているものにとりつくことを寄生、生命のない物質にとりつくことを腐生と区別します。
寄生するカビには、農作物の病気の原因となるカビや、水虫など皮膚に生えるカビがありますが、大部分のカビは腐生します。
栄養の取り入れ口は菌糸です。
水に溶けている無機塩や糖は、菌糸が細胞壁を介して吸収します
パンなどの食品などは、カビがつくり出すアミラーゼ、プロテアーゼなどの酵素を菌糸から分泌し、その作用で、食品に含まれている有機物を、水に溶ける分子量の小さいものに分解してから吸収します。
固いプラスチックも、酵素の力で少しずつ分解して栄養にします。
カビによっては、アルミニウムや鉄を分解して溶かし穴をあける力がありますが、その成分が、栄養としてどのように役立っているかは明らかになっていません。
濃厚な硫酸にもカビが生えますが、硫酸を栄養としているのかどうかよくわかりません。
インクなどの場合は、含まれている成分が栄養に役立っているのかもしれません。
メッキの酸性液にもカビが生えますが、溶けている青酸化合物を分解して栄養にしているかどうかは明らかではありません。
無性生殖&有性生殖<カビはどのように増えるか>
生物は生殖によって繁殖しますが、その方法には、雌雄の合体で新しい個体をつくる有性生殖と、離雄の区別なく親の体から新しい個体をつくる無性生殖があります。
高等生物は有性生殖、下等な生物は無性生殖を行ないますが、カビは、種類によって、無性生殖のものと有性生殖のものがあります。無性生殖と有性生殖の両方を行なう種類もあります。
室内に見られるカビの多くは、無性生殖を行ないます。
無性生殖は。
空気中に延びた菌糸の一部に胞子がつくられます。胞子のでき方は、カビによって相違点があります。
たとえば、接合菌類のケカビゃクモノスカビなどでは、空気中に直立して延びた菌糸の先端に薄い膜でできた袋ができ、その内部に胞子がつくられます。
胞子ができる菌糸を胞子嚢柄、薄い袋を胞子嚢(のう)といいます。胞子嚢は、成熟すると破裂、あるいは溶解を起こして、内部にあった胞子が空気中に飛散します。
接合菌類の胞子は、袋の中にできるので内生胞子といいます。
これに対して、袋ができず外界にさらされた形でできる胞子を外生胞子といいます。
たとえば、コウジカビでは、菌糸から分岐した分生胞子柄という部分の先端が球形にふくらみ(頂嚢)、その上に徳利形の部分(梗子)ができて、その先端に胞子が数珠状にできます。
アオカビのように、頂嚢をつくらないカビもあります。
無性生殖でできる胞子を無性胞子といい、その形、大きさ、色などはカビの種類によって異なります。
球形や楕円形のものがあり、とげのある胞子もあります。
色も、白、緑、青、黒、褐、黄色など実に多様です。
条件が悪い環境で、耐久性、抵抗性が強い胞子をつくり、環境がよくなったときに発芽するという方法をとるカビもあります。
この胞子は、栄養物質が蓄えられて大きくなったもので厚膜胞子と呼ばれます。 ケカビなどに見られます。
有性生殖をするカビ
有性生殖のカビでは、菌糸の一部が雌雄異なる生殖細胞になり、これが結合して胞子(有性胞子)ができ、成熟すると発芽します。
生殖細胞を配偶子といいます
ケカビ、クモノスカビなどは、無性生殖とともに有性生殖も行ない、雌雄の配偶子が結合して接合胞子ができます。
ほほ球状で、黒褐色の厚い膜を持っていて、表面にはいぼ状または銅状の突起があります。
栄養物質が充満しているので長期の乾燥状態に耐えることができます。
成熟すると外膜が破れて発芽して菌糸をつくります
アカパンカビなどの子嚢菌類では、菌糸の一部が分化してできた二つの細胞が互いに伸長し巻き合って結合して子嚢をつくり、その内部に子嚢胞子ができます。
鞭毛菌類では、菌糸に生卵器と造精器ができ、互いに密着結合します。
このとき、造精器中の雄性配偶子が授精管を通って生卵器内の卵球という雌性配偶子と融合し、卵胞子ができます。
湿度の影響<カビの繁殖の最適条件とはなにか>
カビが発育、繁殖する条件は、温度、湿度、酸素、pH、5大栄養素。
このうち、最も影響が大きいのは湿度です
·温度……大部分のカビは、20℃~30℃でが適しています。
25~28℃でぐらいが最適です。
人が生活している温度で十分発育できますが、温度が低くなると増殖がゆっくりとなり活動も鈍ります。
ただし、冷蔵庫内の食物にカビが生えることがあります。
また、低温に強く、氷点下40度くらいの冷凍室の中でもゆっくりと確実に繁殖するカビもいます。
逆に、35℃~60℃の高温でも平気なカビもいます。
·湿度……75%以上、とくに90%以上がカビに好適な湿度です。
日本のように高湿の気候はカビにとっては天国です。
正月のもちが寒いところに置いても10日以上経つと青、黄、緑、黒のカビが生えるのは、もちに水分が多いためです。
逆に湿度80%以下を好むカビを好乾性カビといいます。
コウジカビの一種であるユーロチウムや、アズキキイロカビの一種ワレミア·セビなどが好乾性のカビとして知られています。
酸素……ほとんどのカビは、呼吸のために酸素を必要とします。
酸素がない環境や炭酸ガスの多い環境では、生育が妨げられます。
(水素イオン濃度)……大部分のカビは、 pH2.0~8.0の範囲、つまり強酸性からアルカリ性までの幅広い条件で生育可能です。
最適なのは4.0~6.0という弱酸性の環境です。
強酸性の液、たとえば濃い硫酸銅の液にもカビが生えますが、これは簡単に突然変異を起こす性質があるためだと考えられます
ヒ素より強い毒性<カビの毒とはどういうものか>
食中毒を起こす微生物といえば、従来は細菌がほとんどで、ブドウ球菌、サルモネラ菌、ボトリヌス菌、腸炎ビブリオ菌などによる食中毒が主力でした。
最近では、カビが菌体内でつくり出す代謝産物の中に、 人間や動物に有害な生理作用を及ぼすものがあり、それが原因となって起こる食中毒が増えています。
たとえば、ライ麦を常食しているヨーロッパでしばしば発生した麦角中毒があります。
アカカビ病でできる毒は、増殖細胞に障害を起こし、放射線障害とよく似た症状を起こす毒性があって、とりわけ造血器官に著しい障害を与えることもわかってきました。
アカカビによる中毒症状は、ヨーロッパ、カナダ、イギリスで飼料中毒症が発生しています。
カビによってつくられる毒性物質をカビ毒、あるいはマイコトキシンと呼びます。
マイコトキシンは、カビの細胞内で非常に能率よく化学合成される活性成分(有機物)で、たとえば酵素のように、化学反応を促進する触媒と同じ働きをして中毒を引き起こすのです。
マイコトキシンには、かなり多くの種類があり、毒性と毒の強さも千差万別です。
毒素の種類によっては化学薬品の毒物(たとえば、ヒ素やシアンソーダ)よりも強い毒性を持つものもたくさんあります。
高熱や酸とアルカリに対して安定した性質を持っていて、加熱や酸、アルカリなどの処理によっても分解、消滅しないのがやっかいです。
このため、生物兵器として研究されているマイコトキシンもあります。
マイコトキシンによる中毒は、肝臓や腎臓、中枢神経、造血機能などに障害を与えるので、その症状も多様です。
この点が、急性胃腸炎が中心の細菌性食中毒と異なります。
ともに真菌類の仲間<カビは酵母やキノコと同じか->
カビ・酵母菌・細菌
おいしい発酵食品がつくられるのは、微生物(菌)の多大なる活躍があってこそ。
発酵をつかさどる微生物は、カビ、酵母菌、細菌に大別される。
いずれもミクロの世界ですが、下の表にある大きさは、あくまでも目安であり、麹カビの胞子と酵母はほぼ同じ大きさです。
ちなみに、ウイルスは細菌よりもさらに小さい。※u(ミクロン)は1000分の1mm。
カビ(糸状菌)mouldモールド 約10~100μ
麹カビ属
A.(アスペルギルス)オリゼーは、日本の代表的な麹カビ。黄麹菌とも呼ばれ、日本酒、味噌、米酢、みりんなどの醸造に広く利用されている。昨年、日本醸造学会により「国菌」に認定された。
A.ソーエは醤油や味噌の醸造に利用される。
オリゼーの語源は「米」で、ソーエは「大豆」。A.アワモリは黒麹菌の一種で、焼酎や泡盛の製造に使われる。
世界一硬い食品・鰹節の製造に活躍するのは、A.レベンス、A.グラカスなど。風味付けや乾燥、防腐効果があります。
青カビ属
P.(ペニシリウム)クリソゲヌムは、抗菌作用があり、抗生物質ペニシリンをつくるもととなったカビ。
チーズ製造に使われるカビもこのペニシリウム属に含まれ、P.ロックフォルティは青カビのロックフォールチーズを、
P.カメンペルティは白カビのカマンベールチーズをつくる際に利用されている。
毛カビ属 クモノスカビ属 モナスクス属
毛カビ属のひとつ、M.(ムコール)プシルスは、チーズ製造のとき牛乳を固めるレンネット(凝乳酵素)を生成する菌。
レンネットは、M.プシルス発見前は、子牛の第四胃の粘膜から採られていた。
中国や東南アジアに多いクモノスカビ属は、中国醤油や中国酒の製造に広く利用されている。
モナスクス属のM.アンカやM.パープレウスはともに紅麹カビと呼ばれ、紅酒(アンチュウ)の麹づくりに利用されたり、
紅豆腐をつくるのにも欠かせない。
酵母 yeast イースト 約5~10μ
サッカロ ミセス属
S.(サッカロミセス)セレビシエは、最も代表的な醸造用酵母で、糖をアルコールに変える働きがある。
パンの発酵や、ビール、ワインなどの醸造に使われている。この酵母に近縁のS.サケは、日本酒の醸造に用いられ、清酒酵母とも呼ぶ。
20%程度の濃度までアルコールを生成でき、低温下での発酵も可能。S.ルーキシーは、高濃度の塩がある環境でも発酵を行うので、醤油や味噌の醸造に活躍する。
S.ウパルムは、ビールの発酵に使われ、低温に強い。
細菌 bacteria バクテリア 約0.1~0.5μ
乳酸菌
乳酸菌には、動物由来の乳酸菌と植物由来の乳酸菌があり、動物由来の乳酸菌には、主に家畜などの乳に棲む「酪農乳酸菌と、人間や動物の腸内に棲む腸内乳酸菌がある。植物乳酸菌は、文字通り植物に棲んでいて、漬物やキムチなどはこの力で発酵する。
L.(ラクトバチルス)ブルガリクスは、40~50°Cの高温でも成育し、ヨーロッパのヨーグルトはこの菌によることが多い。
L.ヨグルティは、日本のヨーグルトや発酵飲料に使われている。
その他
酢の醸造に使われる酢酸菌の代表は、A.(アセトバクター)アセチで、アルコールに作用して酸化させ、食酢を生成する。
空気を好むので、静置発酵法では、もろみの表面に菌膜を張る。
蒸し煮した大豆に繁殖して、独特の香りと香味をもつ糸引き納豆をつくるのは、B.(バチルス)ナットー。
この菌は、もともと稲ワラなどに棲んでいる。
納豆菌のつくるプロテアーゼによって、大豆のタンパク質が分解されてアミノ酸になるため、風味が増して消化もよくなる。
これまで、「カビ」という言葉を使ってきました。この、私たちがふだん使っている「カビ」という名称は、実は、生物学上、厳密に分類されたものではありません。
外見的な特徴が共通している一群の生物を呼ぶ一般名称なのです。
その点で、キノコや酵母という呼び方と同じです。
顕微鏡を用いて観察しないと、形状や構造がくわしくわからないほど微小な生物を微生物と呼びます。
カビは、微生物の一種と言えます。
もう少し学問的にアプローチしてみましょう
最近の考え方では、生物界は動物·植物·原生生物と、大きく三つのグループに分類されます。
原生生物は高等微生物と下等微生物に分類され、高等微生物はさらに原生動物·菌類・地衣類·藻類に分類されます。
カビは、このうち菌類を構成する真菌類に分類されます。
一筆で書くと、生物ー原生動物ー高等微生物ー菌類ー真菌類ということになります。
真菌類には、カビのほかに、酵母とキノコがあります。
カビは糸状の細胞(菌糸という)を延ばして成長することから糸状菌と呼ばれることもあります。
形態上だけでいえば、菌糸を延ばすのがカビ、単細胞で菌糸を延ばさないのが酵母、菌糸が集まって笠(子実体という)をつくるの
がキノコです。
ただし、この三種の違いは明確なものではなく、区分しにくい種類もあります。
なお、従来のように、カビは植物と見なされ、根·茎·葉などの区別のない葉状植物のうちの菌類ー真菌類として分類する考え方も
あります。
カビとキノコの呼称である和名については、アオカビのように最後に「カビ」がついたものの多くがカビで、マツタケのように「タケ」のついたものの多くがキノコである。
ただ、日本に生えるいずれのキノコにも和名がついているのに対して、カビに和名がついているのはかなり少ない。
ついているのはむしろ例外と言ってよい。
おいしいキノコか毒キノコかを、よく知っているアマチュアは多い。
一方、カビに詳しいアマチュアというのはあまり聞いたことがない。
カビを観察したり調べたりするのは、ごく少数の専門家に限られている。
食物の観点からすると、カビとキノコの最大の違いは、おいしく食べられるものがあるか否かだ。
キノコを紹介した本は多いが、カビの本は非常に少ない。
多くの人たちは、「そもそもカビとキノコとがなぜ同じ仲間なのか、さっぱりわからない」と思うようだ。
カビとキノコは、生物学的には胞子のできる器官、子実体に大きな違いがある。
カビの多くは、分生子柄という菌糸上から出た器官や、球状の殻の中の子嚢という袋状の器官に胞子ができる。
一方、キノコの多くは、傘の裏側のヒダにある担子器といわれる器官に胞子ができる。
ただ、一般にはこの区別も厳密なものではない。
この胞子のできる子実体が肉眼ではよく見えないほど小さいのがカビであり、手にとって見ることができるほど大きいのはキノコと呼ばれている。
カビは拡大しないと、多くの人に実際の姿を見てもらうことができない宿命を持っている。
カビと細菌は、一般の人からはあまり区別がつけられていないし、区別するのはむしろ不可能かもしれない。
どちらも食品を汚染して、悪臭を放ち、人に嫌われているという点では共通している。
どちらもジメジメしているところが好きで、健康に悪い影響を与えるというイメージが定着している。
どちらも、いなくなればよいと多くの人々が思っている微生物である。
細菌では、結核菌、赤痢菌、コレラ菌などの恐ろしい病原菌が有名であるが、善玉の細菌も多い。
例えば、納豆菌、乳酸菌。納豆菌やヨーグルト作りなどに用いる乳酸菌は発酵食品の製造には欠くことのできないものだ。
発酵食品の製造に不可欠なカビや酵母と同様に、私たちの食生活を豊かにしている。
なお、ほとんどの大腸菌も人間の大腸に常在する善玉菌であるが、ごく一部にO157のような病気の原因になるものがいて、ややこしい。
ただし、カビなどの菌類と細菌との区別は生物学的には非常にはっきりしている。
菌類も細菌も小さいので微生物と呼ばれているが、専門家にとって、この二つはミジンコと象以上に異なる。
体の単位である細胞の大きさや構造が異なるからだ。
細菌は細胞がより小さく、細胞の中心に明確な核がない。
菌類の細胞の構造は、細菌より人間にずっと近い。
細菌とカビの研究者が同じ部屋で実験することは少ない。
細菌の研究者が、カビの研究者と並んで養実験をするのを嫌うからだ。
カビの胞子は飛びやすく、細菌の培養中にカビの胞子が混入することがある為だというが、濡れ衣である。
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