村田商店の古今納豆
納豆には納豆菌によって発酵させた「糸ひき納豆」と、煮大豆を麹菌で発酵させ塩で味つけし乾燥させた「寺納豆」とがあります。
寺納豆は京都の「大徳寺納豆」などが知られますが、一般的に納豆と呼ばれるのは前者の糸ひき納豆です
納豆菌とは、空気中に飛散している枯草菌の一種。
とくにわらをはじめとした枯れ草に多く棲息するといわれています。
大豆をわらに包んでつくる伝来の製法は、自然の納豆菌を利用した、理にかなった方法なのです。
現代の納豆づくりは安定的に生産するために、選別·洗浄してひと晩浸水させた大豆を蒸してから納豆菌を噴霧し、経木や発泡スチロールなどの個包装に充填したのち、発酵室で温度や湿度を管理しながら発酵·熟成させる方法が一般的です
村田商店も、こうした手法で納豆をつくります。平成5年(2013)に全国納豆組合艦評会で優秀賞と最優秀賞、翌年に同会で全国納豆協同組合連合会長賞を受賞し、一躍その名が知られるようになりました。
仙台で納豆屋を営む家に生まれた村田兵共衛さんが、昭和26年(1951)、焼け野原となった仙台から、安曇野で納豆屋を営んでいた親戚を頼って長野県に移住し、長野市で開業したのがはじまりです。
現在、当主を務めるのは3代目の滋さん。
食の安心安全が注目されるようになってから家業に入った滋さんは、品質重視の納豆づくりを目指してきました。
とくに重きを置くのが原料。納豆は加工の段階が少ないからこそ、原料の質が出来を大きく左右するのです。
そこで低炭素農業を志す松本市の浜農場から、無農薬や低農薬の大豆を契約栽培で仕入れます。
容器は、空気を通し発酵の状態をよくする経木を復活させました。
家業に入った当初は発酵室にこもり、発酵の様子を見守りながらデータを取り、研究を重ねたそう。
「ほとんどが微生物の力。人はやれることをやったらあとは見守ることしかできませんから」と滋さん
村田商店が目指すのは、ほど良い弾力のある納豆。「おかゆと食べるのならやわらかくてもいいですが、普通の白米と食べることがほとんどですから、ある程度歯ごたえがあったほうが合うと思います」。
理想の弾力にするためには、豆の蒸し加減に加えて、発酵時の温度調整が大切になってきます。
蒸しあがった大豆の温度は 120度ほど。
作業をしている間にも、温度はぐんぐんと下がり、またほかの雑菌に触れる可能性も高まるので、個包装への充填はスピードが要求される作業です。
納豆菌が活動しやすい40度から45度で発酵室に入れ、18時間、発酵させます。
室に入れてから7時間ほどで温度は約50度まで上がり、あとは緩やかに下降。
発酵を終えたら0度前後で48時間から72時間、熟成させます。
このように、一定の時間に一定の温度にあることが、正しい発酵がなされている証拠。
それを見極めるために、センサーで常に室温と品温を測り、記録しています。
滋さんはそのデータをこまめに確認し、ノートにまとめます。
工場を移築した平成元年からつけ続けるそのノートは、すでに数十冊。
発酵室の入り口に置き、いつもと違う変化があれば過去のデータから現状を分析し、調整します
機械の自動調整機能もありますが、「温度が上がらないとか、いつもと違うことが起きるのにはかならず理由があるんです。
それをただ機械で自動的に温度を上げるような、商品に無理をさせることはしたくないんです。
理由を見つけてもとから改善することが、結果的に良い商品をつくり、お客様の満足度を上げることにつながると思うので、そのための手間ひまはけっして惜しみません」
昼夜、そして休みにかかわらず、滋さんは自ら何度も発酵室の様子を確認します。
「365日、休みなしです。従業員は多くなり、機械化している部分はもちあんありますが、それでもやはり企業ではなく家業なんです」と滋さん。
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