ヒトは母親の子宮を出たときから、成長に必要なバクテリア(細菌)、真菌(かびやキノコや酵母の仲間)、原虫(単細胞生物)を身につけている。
人体を構成する数十兆個の細胞の一部は、その十倍にのぼる数のバクテリアのすみかとなっている。
体表はさまざまな微生物でいっぱいだが、体内はそうでもない。
例外は腸で、ここにはヒトの健康に必要なバクテリアがたくさんいる。
開口部や皮膚にいるバクテリア、真菌、原虫の一部は、限られた空間を占拠し、食物を奪いあうことで、他のもっと有害な菌から人体を守っている。
この関係は一方的なものにもなりうる。人が微生物に栄養を与え、微生物はヒトに害を与えない場合である(これを片利共生という)。あるいは、ヒトが菌から恩恵をうけ、菌がヒトから必要なものを得る場合もある(これを相利共生という)。
たとえば、ヒトの大腸に住む大腸菌は、ビタミンKやビタミンB複合体を提供する。
お返しに、ヒトはこの菌が生き残り増えるために必要な場所と貴重な栄養を与えるのだ。
今回は菌の住みつく場所をくまなく調べ、悪い菌に感染する可能性を減らす方法を探っていきましょう。
皮膚は強い味方
この人体をめぐる旅の最初の滞在地は、皮膚という優れた保護カバーです。
人体で最大の表面積をもつこの組織はなんともすばらしい。
皮膚は柔軟なのに一見したところ硬く弾力があり、悪玉菌のほとんどが増えにくい場所になっています。
皮膚の外層である表皮は、絶えずはがれ落ちる死んだ細胞から形成され、そこにはケラチン(角質)という水に溶けないタンパク
質がぎっしり詰まっています。
新しい細胞が表皮の下層でつくられ、上層にあがり、ケラチンで満たされ、死ぬのです。
そのまた下層にある真皮は、表皮と付かず離れずの状態を保っています。
その状態は、皮膚がこすれると表皮と真皮が離れて水がたまること、つまり水泡ができることでよくわかります。
総じて皮膚は、体内感染を防ぐ最前線をになっています。
皮膚とて無敵の盾ではない。
バクテリアは汗腺、皮脂腺、毛包といった皮膚の表面にある通路から、この保護カバーをすり抜ける。
こうしたルートはあるものの、その一帯は皮脂腺や汗腺からの分泌物やブドウ球菌に保護され、これらが結合して皮膚表面は弱酸性(薄いレモンジュース程度)になっている。
バクテリアはたいがい酸性面では増えにくいので、この状態がヒトを有害な菌から守るのに役立っている。
また、微生物の成長量を決める皮膚表面の特性は、部位によって異なっている。
たとえば、バクテリアは乾燥した条件では繁殖しない。
だから乾燥した場所では、パクテリアの種類も数も少ない。
しかし、完介な乾燥状態にあっても、バクテリアはなくならない。
休眠しているだけだ。
わずかでも水分が生じたら、また増殖をはじめます。
通常、皮膚が湿っているのは、頭頂部(頭皮)、脇の下、肌門の周囲、耳のなかである。
これらの部位をひっかくと、皮膚の下の組織にバクテリアが侵入しやすくなる。
古いことわざにもあるように「耳に肘より小さいものを入れるなかれJ。
鼓膜を傷つけるばかりか、ごく小さな爪によるかき傷でも、バクテリアの侵人には充分すぎる大きさだ。
ほとんどの場合、こうした部位の感染は、人体の防護メカニズムにより局部にとどめられます。
とはいえ、湿った部位ほど感染しやすいことは承知しておきましょう。
「手洗いが最も有効」 はどこまで有効?
ヒトの皮膚は常在菌でいっぱいなのに、日ごとに新しい菌を増やしています。
だから衛生状態を良好に保つことは大切です。
いちばんいいのは、昔ながらのふつうのせっけんと水で皮膚を、とくに手を洗うことです。
だが、洗っても、皮膚に付着している微生物をすべて殺すことはできません。
表面にいる数を減らすだけだ敬時間後には、また数が増えて洗う前に逆戻りしてしまう
皮膚に住んでいる菌のほとんどは、常在菌もしくは皮膚の正常フローラ(人体に付着していても病気を発生させない微生物)といわれています。
大多数は表面に近い上層をすみかにしているが、10~20%は表皮層の奥深くに潜んでいます。
ふつうのせっけんで丁寧に洗えば、常在菌の多くや一時的に皮膚表面に付いている訪問菌は落とせます。
奥にいる常在菌は、ただの手洗いでは簡単には除けないが、消毒せっけんのような抗菌製品で洗えば、おおかた殺すか抑制することができます。
ただし、深層に住む菌を殺すためには、外科医の手術前の殺菌と同じくらい、ごしごし洗うことになります。
だから、とくに用心するのでなければ、ここまでの徹底洗浄は不要です。
実のところ、皮膚を完全に殺菌するためには焼くしかありません。
抗菌製品はどうなの? トリクロカルバン トリクロロカルバニリド
トリクロサンは広く家庭用品に使われている抗菌物質の一般名である。
現在、抗菌性のせっけん、化粧水、口内洗浄剤、歯みがき粉、プラスチック玩具、幼児用トレイ付き食事椅子、ソックス、下着、シーツ、枕カバー、台所スポンジ、まな板など、いろいろなものに使用されています。
浴用せっけんに広く使われるものに、トリクロカルバンと、トリクロロカルバニリドがあります。
タフツ大学および聖ジュード小児研究病院の研究チームによる最近の報告は、トリクロサンをひきつづき広範囲に使用することに警鐘を鳴らしています。
この抗菌剤への耐性を獲得した菌が見つかったのです。
したがって乱用を避け、抗菌製品といっても菌を全滅させるわけではないと心得ておきましょう。
トリクロサン等を含む薬用石けんの切替えを促します
平成28年9月30日、米国食品医薬品局(FDA)が、トリクロサン等19成分(注)を含有する抗菌石けんを米国において1年以内に販売を停止する措置を発表しました。
米国での措置を踏まえ、日本化粧品工業連合会及び日本石鹸洗剤工業会は、これらの成分を含有する薬用石けん※に関し、これらの成分を含有しない製品への切替えに取り組むよう会員会社に要請しました。https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000138223.html
アマゾンでトリクロカルバンと、トリクロロカルバニリドを検索してみた。
なんだかな~~。
自分たちで気を付けるしかないですね。
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