粘膜はバリアです。
鼻、口、喉(咽頭)にはいろいろな微生物が住みついている。
口は硬口蓋(口蓋の前半部。骨質で厚い粘膜に覆われている)と軟口蓋(口蓋の後半部。文字どおり、柔かい)から成り、前者は口
蓋の大部分を占め、後者は、ものを飲みこむときに鼻道へ行かないように閉じる組織である。
泡が鼻に抜けた経験から知れるように、炭酸飲料はこのバリアを越えることがある。
軟口蓋の上下にある組織は、それぞれ、鼻咽頭(喉の後上部)、口腔咽頭(喉の後下部)という。
この部分にいる菌の多くが問題を起こしうる。
たとえば、ブドウ球菌は皮膚では害がないが、ここでは膿蕩などの重い感染症の原因となる。
これまたヒトに住みついている病原体、髄膜炎菌は、脳と脊髄をかこむ膜の炎症(髄膜炎)を起こす。
五~三〇%のアメリカ国民の軟口蓋には髄膜炎菌がわずかにいて、ときに活発化し、体組織に侵入して細菌性髄膜炎をもたらす。
保菌者でも症状が出ないことが多く、いつ発病するかわからない。
1974~75年のブラジルでは25万人が髄膜炎にかかり、1万1000人が死亡した。
さいわい、この部分は(結膜(目)、胃腸管、気道、尿生殖路なども) 粘膜という特殊な膜に覆われている。
粘膜は臓器などの組織の体外への開口部にのみ見られるものである。
ここで分泌される粘液は、微生物の足がかりを与えにくくし、それが防御になっている。
軟口蓋の裏の鼻咽喉には、肺炎(連鎖)球菌、髄膜炎菌、インフルエンザ菌が見られる。
ここに集まっている少数の菌は、まず重病をもたらす菌株ではない。
危険な菌株がたまに侵入してきて、肺炎から脳炎まで多様な重病を起こすのである。
口の中はバクテリアでいっぱい
軟口蓋とちがって、歯はバクテリアの巣窟だ。
歯周ポケット (歯と歯肉の間にできた溝) 1つにつき100~300種のバクテリアがいると考えられる。
こうした歯に群がる菌のことを考え、いかに身近な人とでも歯ブラシは共用してはならない。
歯を磨くたびに、歯ぐきから出た血や睡液中の菌が歯ブラシにうつる。
そこにはB型·C型肝炎ウイルス、単純へルペスウイル ス ある いはヒト免疫不全ウイルスもいるかもしれない。
このほかに、手からブラシに伝わる菌というのもいる。
子どもには歯ブラシを共用しないように教えること。
汚れたものは捨てて、新しいものを使うこと。
菌は乾燥を嫌うので、乾いた歯ブラシには少ない。
使用後は乾きやすい場所に保管し、数カ月おきに新品と交換しよう。
「歯が長くなったJという言いかたで表すのは、加齢で歯肉が縮み、歯が長く見えることに由来している。
これをバクテリアのしわざと考える歯科医もいれば、バクテリアに対する免疫反応で組織が損なわれるのだと考える歯科医もいる。
また、歯にいるバクテリアは、僧帽弁逸脱という心臓病をもつ人には深刻な問題となりうる。
歯の掃除や治療ではとくに注意したい。
口腔(消化管の最上部を占める空間。口唇から喉の手前まで)内バクテリアはふつう血液中にはいないが、医療具で歯ぐきや頬の内側を少しでもひっかいたら、そこから侵入する。
本来ヒトの体はそうした状況にもあっさり対処するものだが、心臓の血液がたまる僧帽弁に小さな穴があると、感染を起こすおそれがある。
この病気がある場合、かならず歯科医に知らせること。
処置のさいに血中に抗生物質があれば、細菌感染の危険はたいがい避けられる。
鼻毛は重要です
鼻毛が出ているのはいささか見苦しいが、これは空中に舞う菌やほこりや皮垢をキャッチする補助的な防御層となっている。
表皮ブドウ球菌や黄色プドウ球菌など数種のバクテリアが、しばしば鼻の奥のひだに見つかる。
ティッシュペーパーや指で押し上げでもしなければ、これらが鼻道や副鼻腔にたどりつき、居すわることはめったにない。
感染してしまうと、症状は重く、治療も困難である。
ということで、ティッシュやら綿棒やらで鼻をほじくってはいけない。
抗菌バリアだらけの目
本来、目の感染症は起きにくい。
防衛の最前線は、結膜と呼ばれる特殊な防護カバーだ。
この薄い粘膜は、目とまぶたの裏面を覆い、まばたき、まつ毛(魅力的で効果的な抗菌バリア)、涙、粘液分泌とともに、目を病気から守っている。
だから目の細菌感染はあまり見られないが、それは主として涙に含まれる化学物質や酵素が菌に、なかでもグラム陽性菌に強いからである。
目の浄化システムはきわめて有効であり、ほかにできることを補足するとしたら、指や物で目に触れないように注意したい。
目に触れるたびに、パクテリアを運び、ひっかく危険が高まる。
もっとも一般的な目の感染症、急性結膜炎の病原パクテリアは、黄色プドウ球菌、肺炎球菌など。
通常は抗生物質入りの点眼薬で治療する。この病気にはウイルス性やアレルギー性のものもある。
コンタクトレンズに要注意
コンタクトレンズの装着はバクテリア感染症の危険をかなり高める。
だから眼科医、検眼士のほか、レンズのメーカーの指示をきちんと守ること。
長時間にわたって使用すると、レンズがシュードモナス属の菌で汚れ、重い感染症の原因になる。
コンタクト使用には真菌(かびやキノコや酵母の仲間)感染の心配もある。
手入れの悪いソフト、コンタクトにはフザリウム属の菌がはびこる。
レンズから落ちないしみがあったら、そこでこの菌が増殖しているかもしれない。
ソフトかハードかを問わず、問題を最小限に抑えるには、レンズの保存に自前の食塩水を用いないこと。
レンズを扱う前にはかならず手を洗い、標準装着時間を守ること。
レンズをいじる前に常識を働かせ、眼科医などに相談すること。
コメント